吟行記
【平成22年1月号】 
 
第65回 平成21年12月18日(金) 
参加者 佳与子 節子 聖子 光子 真理子 由紀子
 
キャナルシティー・中洲川端通り(福岡市)
 
今年は暖冬と思っていたが、次々に南下してくる寒気団が列島を覆っている。今年最後の句座を油山の麓で行なう予定を立ててもらっていたが、句会前日の予報は雪。山道は凍結注意の予報もでているので、大事をとって急遽博多の街中を吟行することにする。
 12月18日(金)博多駅に10時集合。予報通りに時折雪がちらつく。積雪はしていないが風が強く寒い。コートの下にたくさん着込んで、丸い体を更に丸くさせている。この寒さが毎日続く北国には住めないだろうなと思いつつスケジュールを聞く。佳与子さんは喉を少し痛めているようで声が嗄れマスク着用。 
 
大雪になるといふ日の博多かな    節子

集合の博多駅前着膨れて        節子

風邪引きのかすれし声の艶めきて  聖子 
 
  
 
駅から徒歩15分の「キャナルシティー博多」へ向う。ここは言わずと知れた博多の観光スポットの一つで、ホテル、映画館、劇団四季、注目のショップなどが数多く入っている複合商業施設。いつも賑わっているところだが、クリスマスシーズンならではの飾り付けに期待して吟行する。
建物の中に入ると、一階中央のキャナル(運河)に据えられたクリスマスの飾りが目に飛び込んでくる。絵本の中に迷い込んだようだ。キャナルに架けられた白い橋、小人が出てきそうな家、赤と緑の木の中にいる白いトナカイなど狭い空間はクリスマス一色。しばらく飾りや集まってくる人達を眺める。若いカップル、親子連れ、孫らしきを連れた老夫婦など飾りを見ては通り過ぎて行く。
 
  
 
街なかの運河に溶けてゆく小雪    節子 
 
空から雪が降り込んでくる。折畳み傘を広げて外にでようとするが風が強い。小降りになるのを待って中洲川端方面へと向う。キャナルの横を流れる那珂川は中洲を挟んで二手に分かれ、また一つの川になる。天神側の本流は那珂川のままだが、もう一つの中洲と川端町の間を流れる川は博多川という名前に変わる。この短い距離の博多川には歓楽街中洲に繋がる橋が多く架かっている。新しく「夢回廊橋」という名の橋ができているが、それより赤い欄干の橋に惹かれて渡ってみる。鴎が飛び交う橋の向こうには、中洲の古き良き時代の路地が続いているような気がしたのだが、だんだんと店の名前が妖しいものになっている。 
 
  
 
鴎飛ぶビルの谷間や風花す      真理子

初雪の花街へ橋の架かりたる      光子

人気なき朝の花橋に風花す      由紀子 
 
大通りにでるとホッとする。中洲のど真ん中の大きな看板や写真を掲げている通りの方が、まだあっけんからんとした感じがするのだが、静かで物寂しさのある妖しい通りは自然と足早になる。
中洲から橋を渡って下川端町の「博多座」に着く。このすぐ裏手に食事処「吉一」がある。ここは山笠吟行の時にも使った老舗料亭で、料理が美味しい。二階の座敷に上がり膳につく。今回は聖子さんが久々に参加することができ、全員参加の年忘れとなる。熱燗を一本注文し、一年の感謝と労いと反省に盃を酌み交わす。
 
  
 
句座博多座の裏手とか年忘      真理子

じゅうたんの廊下につづく冬座敷    節子

一盃の酒に六女年忘           真理子

熱燗の銚子一本分け合ひて        節子

料亭の障子はビルの壁を裏      真理子 
 
句会場は近くのリバレイン5階の「アトリウムガーデン」。それぞれ吟行して14時30分に集合することに決める。リバレインの横には「鏡天満宮」の小さな社、中洲に渡る「博多ことぶき橋」、橋を渡った所に「博多人形会館」がある。ここでは主要な博多人形作家の作品をほとんど見ることができるし購入もできる。皆は買物方々立ち寄ったようだ。少し近くを散策する。「博多ことぶき橋」下の川中では、浚渫工事をしているのか人夫がショベルカーの近くにいる。仕事をしているふうでもないので休憩時間なのかもしれない。雪まじりの風を避けるように立っている。橋のあたりは海からの風があまりにも強く寒いので、ホテルオークラのロビーでクリスマスツリーを見上げながら時間をつぶす。聖子さんは喫茶室で温かいココアを飲んでいる。皆もロビーに集まり、オークラのパンを買ったり、ツリーを見たり、冷え切った体をほぐしている。 
 
  
 
悴みし手ぶれのカメラ又しても       由紀子

こヽ博多ことぶき橋の寒風に         節子

時折は日の差す中に雪降れり        光子

店番は御内儀一人雪もよひ         光子

川端に寄せて師走の荷をおろす     佳与子

川普請窪地に風をさけながら       佳与子

北風を背に向けて工事の手を休め   由紀子

玻璃越しのビューティーサロン街師走 真理子
 
 
 
「アトリウムガーデン」で10句の句会。作りものなのか本物なのかわからないが、天井高く枝を伸ばした木々に囲まれたオープンカフェーは誰にも気兼ねせず句会ができるので有難い。
ここで解散となったが、帰りに名物「川端ぜんざい」を久しぶりに食べる。相変わらず甘い。大正初期創業の川端ぜんざいは、その甘さで評判になったが、昭和60年に後継者がなく閉店。今この味を懐かしんで地元商店街の人たちがアイデアを出し合って「ぜんざい広場」として開店営業し、広場の奥には常時「走る飾り山笠」が設置されている。
福岡市でありながら「博多」の名前が幅を効かす街。博多人形、博多めんたい、博多ラーメンなどなど。商人の街博多の中心がこの川端町であり、城を中心にした福岡との橋渡しの街が中洲である。今は福岡城址に近い天神界隈が賑わっているが、山笠を支える街としていつまでも元気であってほしいものである。
 
  
 
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